『問わずにはいられない』編集中記(1)

編集が終わった時に書くのが、編集後記だとすれば、編集中のつれづれなる思いを書くのは「編集中記」ともいうべきか。差支えない範囲で、ぼちぼちアップしていきたい。

学校でのいじめや事故・事件の原稿の編集にあたって、バックグラウンドとなる知識は欠かせない。とりわけいじめに関して一番眺めた資料が「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」である。この中身について、発行元である文部科学省 初等中等教育局 児童生徒課(長い呼称だなぁ)に、何度か電話で問い合わせたことがあった

確認はたいてい順調に進んだ。ところが最終段階のある日、話が詳細な数字部分に至ったせいか、何人か担当者が変わり、やがて情報分析ナントカ官が電話口に登場した。

「はい。何か?」
何かって、用事がないのにこんなところ電話する奴いないよ、と思いながら、いじめについてのある言葉の定義について聞いた。

「HPに載っていると思うんですけどね、いじめの定義は」
いやいやそれじゃなくて、いじめについてのこの項目の定義ですよ、と説明をした。すると「ありませんね」と瞬殺。ザ・官僚的応対というより、物言いに明らかな敵意を感じる。

気を取り直して、次の質問にうつる。その回答にナントカ官自身の解釈が入ったので、要はそれ、現場に判断が委ねられるということですよね、というと、沈黙する受話器から、怒りが立ち昇っているのが感じられる。何か、虎の尾を踏んでしまったらしい。

極め付けは、クロージングである。ありがとうございました、と礼を言うと、相手は早口で自分の名を名乗り「で、お名前は」と聞く。おい、前に取り次いだ奴、コイツにどこの誰からの電話か伝えとらんのか、と思った。と、一瞬の間があったのだろう、嘲笑うような口調で言われた。

「言えないんですか」
いえいえとんでもない、最初に名乗りはしたんですよ、タ・ハ・ラ、田んぼの田に原っぱの原です、ついでにあなたの名前の漢字をお聞きしてよろしいでしょうか、と聞いてみた。

「それって必要なんですかね」
まあそうおっしゃらずに、参考のためぜひ、と希望すると、相手は語気を荒げて漢字2文字を伝え、電話を叩き切った。ここまでの対応をされると、腹立たしいというよりは、話の小ネタを提供してもらった喜びの方が大きい。

電話を置いた後しげしげ考えた。めんどうくさいのか、やっかいな相手と思われたのか。しかし情報を欲している相手に自分の作ったデータの意図、中身を説明するのも彼女ら、彼らの仕事ではないのか。いやひょっとして、この人(たち)にとって、不登校の「1」も、いじめ自殺の「1」も、単なる「1」という数値にすぎないのか。

でもそのたった「1」の数字に、どれほどの子供の苦しみ、家族の苦悩が隠れているのだろう。少なくとも、文科省担当者の仕事の要諦は、数字を足し引きすることではない。その苦しみを取り除くためのデータを、提供することだ。そこに思いをはせてはもらえまいか、と願った次第である。