タハラ博士の「帰ってきた添削道場」 -自己PR編-


スペースの有効活用

こんにちは、タハラ博士じゃ。エントリーシートや履歴書で要求される文字数はさまざま。たった100字に収めろというものや、1200字も求められるものもある。市販の履歴書では、書けるのはせいぜい200字程度。

限られたスペースでどれだけ表現できるかの?例を見よう。

Q 学生時代に打ち込んだことを200字程度で紹介してください。

 

 

私が学生時代に打ち込んだことは、アルバイトです。アルバイト先はコンビニで、入学した時からのアルバイトで、接客だけではなく、仕入れや商品の陳列までを任されました。アルバイトの店長から信頼され、社員としてフランチャイズ研修に出たこともあります。このアルバイトでの経験を、卒論のテーマにしようと思っています。貴社でも「お客さまの身になって考える」を活かし、「ありがとう」の声をお客さまからいただきたいです。(200字)



 

なんか気になったことはないか?まずわしの目についたのは次の2つじゃ。

 

1. 言葉の重複 (私が学生時代に打ち込んだこと、アルバイト)

2. 入社後の決意表明は必要か貴社でも「お客さまの身になって考える」~いただきたいです。

 

限られた字数なのだから、1字でもムダな字は削るべきじゃ。一度削ってみて、読み返して意味が通じるようならその言葉は原則、いらない。また、入社後の意気込みは「志望動機」に書くべきじゃろう。そのスペースがないなら仕方ないが、質問は「学生時代に打ち込んだこと」、聞かれたことにまず答えるべきではないかの?

 

書き直し 1

 

 

私が学生時代に打ち込んだことは、アルバイトです。アルバイト先はコンビニで、入学した時からのアルバイトで、接客だけではなく、仕入れや商品の陳列までを任されました。アルバイトの店長から信頼され、社員としてフランチャイズ研修に出たこともあります。このアルバイトでの経験を、卒論のテーマにしようと思っています。貴社でも「お客さまの身になって考える」を活かし、「ありがとう」の声をお客さまからいただきたいです。113字)



 

字数が半減したぞ。これでもっと、アピールしたいことが書けるはずじゃ!じゃあ何を盛り込むか、続きは次の機会に。さらばじゃ。


そのエントリーシートに何をさせたいか

文章には、必ず目的がある。お詫び文だったら「相手をなだめて人間関係を修復する」じゃ。いわば自分の分身として、代わりに働いてもらうわけじゃな。では、自己PRの場合は?まずは自分という人間に興味を持ってもらうことじゃろう。では前回の「書き直し1」はその役割を果たしとるかの?整理してみよう。

 

「学生時代に力を入れたこと」書き直し1(修正版)

 

 

入学した時からのコンビニでのアルバイトです。、接客だけではなく、仕入れや商品の陳列までを任されました。店長から信頼され、社員としてフランチャイズ研修に出たこともあります。この経験を、卒論のテーマにしようと思っています。(約100字)



うーむ。読み取れる情報は、せいぜい下のようなもんじゃないかな。

 

 ・ アルバイト先の店長から信頼されている

   (勤務期間が長い、店のことを任されている、研修も体験) 

 

これで相手に興味を持ってもらえそうか、といえばちと厳しいのう。そもそも、何が言いたいのかよくわからんじゃろ?「私は信頼に値する人間です」か?キツいことを言えば、それは「店長」からだけの評価じゃ。

 

このように「自分は他人からこのような評価を受けている」だけで終わっているものが、エントリーシートの大半を占める。「他人からの評価」の受け売りだけでいいのか?自分を「私はこんな人間です」と自分で評価できんか?

 

そこでもう一歩進めて考えてみよう。どうしてアルバイトを始めたんじゃ?何?金のため?そうか、じゃあなんでそんなに長いこと続いた?学校から近くて続けやすかったのが一番、それと面白かったからじゃと?どこが?ふーん、商品を売るためにこんな工夫があるってことがよくわかったというわけか。生きた社会勉強、かの。大学の講義より最先端で面白かったとな?ナルホド。専攻はなんじゃ?ああ、経営学部か。だから卒論に取り上げようと思ったのか。

 

これらを整理すると、下のようになるかの。

 

 ・ 金のために始めたアルバイトだった。学校から近かったから続いた。

 ・ やっているうち専攻である○○学を実地に学んでいることに気づいた。

 ・  この学びを卒業論文という場で整理して考察したい。

 

え、まだ自慢したいことがあるって?

 

・ 自分のアイデアでそのコンビニの地域での売り上げが一番になったことがある。

 

そうか。いろいろ材料が出てきたの。このように、力を入れたことなどを「なぜ?」「なぜ?」と掘り下げていくことによって、自分という人間の考え方を探ることができる。特に注目したいのは、動機や目的。「~を達成した」「~を得た」という結果よりも、「力を入れたことを始めた動機や目的、あるいは継続の理由などに「その人らしさ」が現れやすい

 

この作業を自己分析という。詳しくはHow to Write (準備編)2にアクセス→パスワード→How to Write 3-1(自己PR編)をみるとよい

 

今回の教訓じゃ。「文章は自分の分身。コイツにどんな働きをさせるか、読んでもらった相手の頭に何が残ればOKなのか、強く意識すること」。

 

では次回、出てきた材料を使って、「エントリーシートが言いたいこと」を形作ってみよう。 

 


 

自己PRの真の主役は「私はこんなヤツだ」

エントリーシートの目的は「自分という人間に興味を持ってもらうこと」だと前回確認したの。では、そもそも人事担当者に、自分はどんな人間だという印象を与えたいんじゃろ?その対象やねらいをハッキリさせたうえでちゃんと文章を書いとるかな?

 

 前回洗い出した情報を、とりあえず文にまとめてみようか。


「学生時代に力を入れたこと」書き直し2

 

 

学校に近いということから気軽に始めたコンビニでのアルバイトです。仕入れ、陳列、販売などを任されるうちに、専攻である経営学を実地で学んでいることに気付きました。自分でアイデアを出し、地域での売り上げが一番になったこともあり、その経験を卒論のテーマにしようと思っています。これからも笑顔で接客を続けていきます。(153字)



 

昔、オモシロい経験をしたことがあっての。わしが一生懸命自己PRを添削しとるところに小学生の孫娘がきて、これと同じようなことを書いた学生さんの文章を読んで言ったんじゃ。

 

おじいちゃん、この人、このコンビニに就職するの?

 

…なんでそうなったかわかるか?そう、「誰に向けて‘私はこんなヤツだ’と訴えるのか」という文章のベースがあいまいなまま、「体験」が並んでいるからじゃ。こんな場合、自分が思ってもみなかった印象を相手に与えてしまうことがよく起こる。笑い声が聞こえるの。でも自分も同じようなことをやっとるかもしれんぞ。

 

そもそもどんな自分を相手に伝えたいのかな?ん?「『とことんやる人間』とアピールしたい」じゃと?…でも、ちょっとずれとりゃせんかのう…。上の文だけだと「とことん=つきつめて、徹底的に」といった部分は見えんな。そもそもお前さんは、どんなことに対して「とことんやる」んかの?

 

どんな場面で「とことん」スイッチが入るのかは人それぞれじゃ。そして、そこにその人の固有のものの見方や考え方が現れる。いわゆる価値観、というやつじゃ。質問「学生時代に力を入れたこと」は、各人のとことんスイッチのありどころ=価値観・エネルギーの源を聞かれていると考えてよい。だからどんなことに対して「とことんやる」のかも、相手に見えるように説明せんといかん。

 

今回の教訓といこうか。「たとえ質問が『一番力を入れたこと』でも、できごとの羅列になったらダメ。「自分はこんな人間だ」というベースが必要だ。出来事は、それをいうためのbecause(なぜならば)の役割にすぎないのだから」。

 

では改めて聞くが、上のアルバイト体験をもとに自己PR文を書き直すとすれば、おまえさんはどんな「自分」を軸にアピールしたいかの?次回の宿題じゃ。

 


どんな自分をPR(強調)するか?

人間は十人十色。同じ経験をしても感じ方や得たものは異なる。同じアルバイト体験でも、PR(強調)したいポイントが違うと文章はどう変わるかの?実際に書きながら考えてみような。

 

● 力を入れたこと=学業をアルバイトに活かした→勉強熱心な学生だよ


 

コンビニ店でのアルバイトです。仕入れ、陳列、販売などを任されるうちに、専攻である経営学の考え方が活かせることに気付きました。販売のアイデアが当たってその店の地域での売り上げが一番になったこともあり、紙の上では味わえない現場の面白さを知りました。勉強に支障がない程度にという気持ちから始めましたが、ここでの経験を卒論のテーマにするつもりです。どこにでも学びの種があるということが一番の発見でした。(199字)

 

 

アルバイトを題材にしながら、アピールポイントが「学業」になっておるのがミソじゃ。ちなみに皆の文章で見かける「バイト」「コンビニ」は「アルバイト」「コンビニ店」とできるだけ略さず書いたほうがええぞ。

 

次はちょっと角度を変えて書いてみよう。

 

● 力を入れたこと=お金を稼ぐためのアルバイト→苦労を買って出るタイプの学生だよ


 

学業、クラブ活動などいろいろですが、一番にコンビニ店での深夜のアルバイトを挙げたいです。当初は○○部との両立と高めの時給だけがめあてでした。ただ年配で経営に消極的になっていたオーナーが気の毒で、アルバイトながら仕入れ、陳列と手伝ううちに、利益を上げる大変さなど世の中の仕組みを随分勉強したように思います。今秋から違うアルバイトに変わりましたが、ここでの経験をベースに卒論を書こうと考えています。(198字)

 

 

さっきの例文とアピールポイントがちょっと違うじゃろ?これだと限られた字数で「部活」もチラ見せしながら、なんでも一生懸命取り組む自分のバイタリティーをアピールすることができるぞ。

 

ちょっと変わり種でこんなのはどうじゃ?マスコミなんかには受けるかもしらん。

 

● 力を入れたこと=人間観察→ユニークなものの見方をする学生だよ


 

人間観察です。そのためサークルは○○クラブ、アルバイトは短期間でさまざまな職種をこなしてきました。中でも興味深かったのは1年間続けたコンビニ店です。いろいろな時間帯のシフトに入り、顧客層の移り変わりや購買する品目などを目を凝らして観察し続けてきました。これは単に自分の好奇心を満たすだけでなく、店の大幅な売り上げアップにも貢献しました。これからも人間ウオッチを続け、観察眼を自分と世の中に役立てたいです。(200字)

 

 

「このPR文は自分にとってはイマイチ」と感じるものもあろう。ただ、ここで言いたいのは、たとえコンビニ店という同じ題材でも、いろいろなPR文の展開ができるということ。だいたい学生のネタなんてアルバイト、サークル(クラブ)、ボランティアと底が割れとる。それをいかに他の学生と違うように見せるかが腕の見せ所なのじゃ。