タガメ女とカエル男

この禍々しいイラスト、2013年、14年に上梓されたこれは、まさに禁断の書なのか。

 

「できるだけ早く結婚することは、女のビジネスである」といった賢者は、アイルランドの戯曲家、バーナード・ショーだっただろうか。彼の時代から下ること約1世紀、ここ日本ではまだまだ結婚は女のビジネスである。その生態は、希少種となった「タガメ」(カメムシ類のくせに今や一匹数千円もする。)に例えられる。

 

獰猛(どうもう)な捕食者であるタガメは、田んぼでお気楽に泳いでいるカエルなどの小動物の体を、物陰からその箍(タガ)でガバッと捉える。そして鋭い口吻を突き刺し、タンパク質を分解する液を注入、栄養分をゆっくりと吸い取っていく。哀れカエル君は、骨と皮ばかりになって水路に漂う、という身の毛もよだつような光景である。

 

ところが日本では、この捕食のプロセスを「幸せ」というのだそうだ。35年住宅ローンという搾取、家族サービスという強制労働という形で、カエル君は社会的リソースを長期間かけて吸い取られる。「いいんだよ、妻タガメさえ幸せならば」というさみしく笑うあなた、それは違う。

 

田んぼにひしめくタガメらは、夫の社会的地位や経済力、子どもの学力、そんなわずかな差異に一喜一憂して、ストレスをため込み、攻撃性を募らせる。その攻撃をもろにくらったカエル君らは凶暴化し、カエル社会でパワハラを繰り返す。そして子タガメ、子ガエルは再生産され、親たちと同じ人生を送る。こうした狭い小宇宙で、幸せを感じているものがいるのだろうか?重い問いかけである。

 

ちなみに、この本は話題になった割には、売れなかったらしい。その一つの理由は、信じがたいことに、発行当時に販売担当となったカエル君が、本をわざと売らずに抱え込んだというのだ。のちバレた時に上層部から激しい叱責を受けたらしいが、カエル君にとっては自分の「幸せ」の正体を暴露する行為に加担する方が、よほど恐ろしかったのだろう。

 

先程のショーの言には続きがある。「できるだけ結婚しないでいることは、男のビジネスである」。それも一方策だろう。でもカエル君にならずに幸せな家庭を築きたいと考える諸氏、ぜひこの本をどうぞ。