髀肉之嘆

2,3日前、数年ぶりに馬に乗った。今日になってもまだ腿(もも)裏が痛い。筋肉痛とは異なる種類の痛みだ。

 

子細に観察すると、腿の裏に赤黒い筋が縦横無尽に走っている。ちょうど紙をくしゃくしゃに丸めて広げたような様子だ。要は、馬に揺られているうち、豊かな太腿の重みに耐えかね、皮がよれて内出血をしたらしい。かなり情けない話だ。

 

「髀肉之嘆(ひにくのたん)」という故事成語がある。時は後漢~三国時代の中国で、主人公は『三国志』で有名な劉備。ゲーム好きはこれでわかるよね。ちょっと上の年代では、諸葛孔明の上司と言えばいいか、とにかくこの人にまつわるエピソードである。

 

とある宴席、厠へ中座した劉備、席に戻ってハラハラと涙を落している。不審に思った周囲が尋ねると、「常に馬上にいる戦場では、太腿のぜい肉がつかなかった。しかし馬に乗らない今、なんと太ももの裏にぜい肉がついていることよ(常時身不離鞍、髀肉皆消。今不復騎、髀裏肉生)」。転じて、「無為に過ごす」「機会に恵まれない」の意味となった。

 

私も泣きたい。肉の重みでよれた表皮に、パソコンチェアの上で身動きするたびチリチリとした刺激が走る。腰かける時も慎重に。まさに「皮肉之嘆」である。