それにしても今年は桜の散るのが早かった。
日も暮れてから、武庫川(兵庫県尼崎市-西宮市の市境)の下流から上流に向かって自転車で帰路を急いでいると、河原で笑いさんざめく声が聞こえる。見ると、人が河川敷に四角くひしめき合っている。花見であろう。かなり冷え込むなか、頭上には濃く茂った葉っぱがあるのみだ。
少し進むと、日当たりが悪い場所なのか、道端に、わずかな花びらをぶら下げた貧弱な桜の樹が目に留まった。こういうのを「姥桜(うばざくら)」というのかな、と感じた瞬間に自分の脳内辞書がそれを否定した。そう、姥桜は、年をとってもあでやかな女性のことを言うのだ。
Weblio辞書によると
1 葉の出るよりも先に花が咲く種類のサクラの俗称。ヒガンザグラ、ウバヒガンなど
2 娘盛りの年頃を過ぎても、なお美しい器量を保っている女
とある。由来は、「葉(歯)なしで花が咲く」意からという。とはいえ、人間に置き換えた場合、歯抜け婆さんに色香を感じる男はまれであろう。歯なし=お歯黒をしている(既婚者)ということかなと推察できる。今でいう「美魔女」だ。
ただ、「美魔女」が与える語感と「うばザクラ」に漂うそれとは、私に言わせればかなり違う。前者の定義が"エイジレスビューティー"であれば、後者は"エイジングビューティー"といったところか。
「美魔女」には不断の努力が必要だ。魔法の源はエステやジムや美容室。また笑ったときに披露される、ホワイトニングで輝く歯は最大の武器である。一方、「うばザクラ」はお歯黒が語源だから、これ見よがしの笑顔は無用。清潔感をベースにしつつ、必要以上の若作りはしない。
時はスタートアップの4月。「うばザクラ」をめざすなら、なんとかなるかもしれない。よしがんばろう、とおもったものの、何をどうがんばればよいのか、皆目見当のつかないタハラであった。