PDCAに必要なもの

初対面の人に「どんなお仕事をされていますか」と聞かれるたび、口ごもってしまう。「え~っと、研修講師とかコンサルティングとか、本やWebの編集やライティング。そうそう、社史も作ってますね。昔、大学でキャリア授業もやってました」。だんだん相手の顔が不審げに変わっていく。そこで最近は、「まあ、言葉のよろずやといったところでしょうか」と締めくくる。すると、ちょっと納得したような表情になってくれる。

 

先日、こうして自己紹介した後の、相手のリアクションがちょっと面白かった。

 

「そうですか…。ではもしかしてマニュアル作りでお手伝いくださることは可能でしょうか?当社では組織開発のコンサルティングもしておりまして。コンサルティングのあとの業務マニュアル作りは当社の若手の仕事なのですが、正直なところ、そこに手を取られるのはもったいないと思いまして…」

 

つまりこの会社は、「組織開発」のあとのマニュアル整備を、その組織との共同作業にするどころか「若手に任せるほどもない請負仕事」と見なしているようなのである。

 

一度でも組織を内部から見たことがある人間ならわかるように、実は、組織変革は、コンサルが去った後が勝負だ。変革担当者は、やれやれと息を吹き返す抵抗勢力を、トップの力を使って押さえつけ、いまだに他人事の顔をしている一般社員に向かってマインドの浸透を図っていかなければならない。

 

PDCAサイクルでいえば、コンサルができるのは、せいぜいP→Dまでだ。変革の成果を持続させるためのC→A→サイクルは組織にゆだねるしかない。 そこで、頼りになるのが「マニュアル」だ。とりあえずはこれを金科玉条のごとく振りかざし、拠りどころにするのがセオリーである。

 

キリスト教だってイスラム教だって、マニュアル(聖書)があるから千年以上も続く大宗教に育ちえた。だから権力者らはこぞって、自分たちが都合のいい内容に『欽定聖書(君主の命によって編集した聖書)』を編んだのだ。その重要性がわからない会社にコンサルを任せた、組織開発とやらの効果やいかに。