酒、人を呑む

暦の上ではお正月ということで、アルコールに絡む話を少々。

 

私自身はアルコールはNGで、肌に触れてもかぶれる体質である。以前入院したときなどは、消毒のたびに皮膚が赤くなり、ついには看護師引継ぎ用として「田原さん、アルコール禁止」と朱書きされた紙が、デカデカと頭上に貼りだされてしまった。布団の中でのワンカップ大関の隠し飲みがバレたアル中患者のようで、少々恥ずかしかった記憶がある。

 

私は論外として、日本人をはじめとするアジア人はほぼ下戸の類に属するだろう。それにひきかえ、ヨーロッパ人、特にロシア人は恐るべき飲酒レベルの人がいるらしい(ロシアをヨーロッパに含めていいのかという議論は、ここでは触れない)

 

ロシアがまだソ連と言われていた大昔、時はゴルバチョフ禁酒令下の冬のモスクワ。外国人だけに出入りが許された専用バーのカウンター脇で、モスコーミュールをちびちびなめていたときのことだった。

 

ときおり、コートを着た人間が寒風とともにふわっと入ってきて、そのままカウンターに手をつく。バーテンダーはビーカーに手早く何かを注ぎ、客はそれを一気にあおる。そして黙って扉を押し開けて出ていく。その間数十秒。入れ替わり立ち代わり、この光景が少なくとも4,5回繰り返された。

 

「何飲んでいるの?」好奇心にたえかねて聞いたら、バーテンダーはガン無視。客は、こちらに向き直りまじめな顔で「水さ」という。その吐息がいかにも酒臭く、ああ、そういうことかと合点が行った。法の目をかいくぐって、現地人を外人バーに出入りさせていたのだ。

 

最近、ドイツに留学中の大学生からも面白い話を聞いた。ロックダウンが続く中で、寮生がコロナ濃厚接触者の判定を受け、最長2週間の禁足を食うことがひんぱんに起こるらしい。

 

その間、生活必需品はボランティアが玄関先に買い置きしてくれるが、アルコールは禁止である。そこで、上の階の友達に頼んでビールだのワインだのを調達、(玄関だとバレるためか)こっそりと窓から吊るしてもらい自室の窓から受け取るうそうだ。

 

禁じられれば禁じられるほど、あの手この手で対抗策を講じる。酒に呑まれた人間のやることは、今も昔も変わらない。