もしも『一杯のかけそば』が「すうどん」だったら

ひさびさに関西脱出、「そば・うどん」の看板を見かけての雑感である。地元だと「うどん・そば」の順番が主流である。

 

バブル期の記憶があるアラフィフ世代以上なら、名作『一杯のかけそば』を覚えておられよう。舞台は大晦日の札幌の蕎麦屋で、その主人・女将と、客である3人の母子の交流を描いた短編である。「お母さんもお食べよ」と、一杯の年越しそばを身を寄せて分け合う、つつましやかな母子の様子が日本中に感動を呼んだ。

 

実は、関西育ちのタハラは「かけそば」なる食品がよくわからなかった。要は、何ものっていない温かいそば、で納得したものの、同時に冷たいVer.の「もりそば」なる存在を知り仰天した。「ざるそば」との違いは海苔の有無だという。そんなことで値段に差異を付けるセコさよ。ひょっとして、かけそばにはネギすらないのか。

 

うどん文化の関西であれば、かけそばよりも「すうどん」が鉄板である。もちろん、ネギはデフォルトだ。そもそもネギやショウガ、天かすはテーブルの上などにおいて入れ放題にしておかないと、客から苦情がでよう。

 

―テーブルの上の、1杯のそばを囲んだ母子3人の会話が、カウンターの中と外の2人に聞こえる。 「……おいしいね……」 「今年も北海亭のおそば食べれたね」―

 

物語のなかの心温まる会話。関西版「一杯のすうどん」では、こう変わるかもしれない。

 

「ちょっと●●ちゃん、そこにある天かすをスプーンですくってドバっとかけてから、そろーっとこぼれんように箸で汁にまぜこんで。そうそう。それからネギや。ミニトングでガッとつまんでうどんの上にドカッと三角盛りにするねん。これで母子3人分のカロリーとビタミン確保や!」