妙齢な壮年

「こういうオレンジ系の服って、妙齢になると着づらいですよね」―20代後半の女性とのやりとりに「???」となったのが、気づきのきっかけだった。どうやら、中高年という意味で使っているらしい。

 

妙齢、で検索すると「街コンいったら、妙齢が出て来たしw」「妙齢のオッサン」など、出るわ出るわ誤用が。検索結果上位100位ほどのページを見ると(ヒマ人か、キミは)、本来の意味の「若い年ごろ(の女性)」より、いわゆる「オバサン、オッサン」として使った例の方が多いぐらいだ。

 

理由は、「妙」という漢字の微妙な立ち位置にあるのだろう。もともとは、きわめてうつくしいさま、すぐれたさま、統計で言えばS.D.(標準偏差)+2より上に対して使う表現である。いわば上位5%に入るエリートな人や物だ。

 

ところが、ふつうでないという意味が転じて、S.D.-2の下位5%未満の事物をもさすようになった。たとえば「妙な人」がそうだ。そこからニュアンスを拾ってできたのが、ネガティブ語の「ビミョー」。おそらく妙齢の誤用も、この流れにある。

 

もう一つの理由は、ニッポンが戦後、世界一の長寿国になったからではないか。厚生労働省の一般的な分類は、「幼年」0~4歳、「少年」5~14歳、「青年」15~24歳、「壮年」25~44歳、「中年」45~64歳。65歳以上の「高年」だ。

 

ところが2021年には、65歳以上は人口の3割、75歳以上が占める割合はその約半分。もはや、どの年齢層が「妙齢=希少価値」なのか。わからないほど、年齢の分布曲線が広がっている現状がある。

 

コトバは世につれ人につれ、変遷していくのは自然のならい。だが使う方と使われる方に、理解のくい違いが生まれるのは困る。こちらがフォローしておかないといけない。

 

よし、いやしくも言葉でメシを喰っている身なら、アップデートあるのみ。そうあらたに研鑽?を誓った、妙齢な壮年の田原であった。

補足:中高年(45歳以上~)=壮年という捉え方が、最近の認識らしい。40歳代以上は、実年齢より20年ほどマイナスして、厚労省基準にあてはめた方がいいかもしれない

 

参考

毎日ことば 妙齢の年ごろは? 毎日新聞社

「初老」は何歳? NHK放送文化研究所