更新予定日だったバレータインデー(火曜)の翌日、買いすぎたビターチョコをむしゃむしゃ食べながらながめた、自民党・岸田首相と立憲民主党・西村議員とのやりとりがおもしろかった。
発端は2月1日。岸田首相が、国会で「同性婚をなぜ認めないのか」と聞かれ、「すべての国民にとっても、家族観や価値観や、そして社会が変わってしまう。こうした課題」と答えたことについてだ。これを否定的なニュアンスだとして撤回を求めた西村議員に対し、岸田首相はこう答えた。
岸田:…いきなり変わってしまうから、否定をしたというのではなくて、変わるから議論をしましょうという趣旨で発言した。…
西村:例えば、社会は豊かになってしまう。おかしいですよね。社会がすさんでしまう、これはしっくりくるんですよね。…金田一先生もおっしゃっていますから、社会がっていうのを主語にして、『~てしまう』という言葉を使って、何かポジティブな例文を作っていただけませんか
岸田:あの時の発言の趣旨、…決して否定的でもなければ肯定的でもない。そういった発言であると、わたしは思っている
※…は略
庶民にすれば目もくらむような時給をもらっている方々。そんな言葉の端くれで会期を消費するのではなく、本質的な部分で議論をしてほしい、という嘆きはさておき。「~してしまう/動詞+テ形+しまう」のニュアンスを、ちょっと考えてみよう。
通例として、以下の2とおりの用法がある。
1「~してしまおう(意向)」→完了(や期待)(基準となる時点までの完了を特に強調する)
例:こんな簡単な問題、岸田君だったらすぐに片づけてしまうだろう
2「無意志動詞+てしまう」→後悔(や危惧)
例:西村君、会期初日なのに遅刻してしまうよ
「変わる」は意向か無意志動詞なのか。これが発言の真意の決め手である。さてどっちだ⁉
そう、「変わる」は他律的な動詞だ。そこに話し手の意思は汲み取れない。となれば、2「後悔や危惧」であることは明白だ。
では意思をふくんだ「変える」だったらニュアンスはどうなるか?
…「家族観や価値観や、そして社会を変えてしまう。こうした課題」。うん、これだったら首相の強弁も通用するかな。ちょっとの違いでネガからポジのテイストへ。コトバって難しいですねぇ。
参考 『初級を教える人のための 日本語文法ハンドブック(2001)』スリーエーネットワーク