推しかヒイキか

推し、という言葉を、自身ではあまり使わないような気がする。そもそもアイドルやらタレントに入れ込むたちではないので、使用機会に乏しいことがひとつ。もうひとつは「贔屓(ヒイキ。カメに似た神獣ヒキが由来)」「タニマチ」だのりっぱな言葉があるのに、わざわざ若向きの語を使ってもねえ、というためらいがあるからだ。

 

「推し」は、もともとオタク用語である。2021年に流行語大賞にノミネートされたことは記憶に新しいが、その30年前には出現していたらしい。これが陽のあたる場所に躍り出たのは、おそらく、地下アイドルであったAKBの選抜総選挙に、マスメディアのスポットがあてられたことがきっかけだ。

 

その後、推しは、推し活、推しメンなど次々と派生語を生み続け、今年度になり『推し、燃ゆ』が芥川賞受賞という快挙を遂げた。日本一有名な文学賞のお墨付きを得たわけだ。「自分の気に入った者に対して肩入れし、優遇すること」で、ヒイキと意味合いは同じなのに。

 

推しの栄耀栄華に比べて、活躍の場をなくしつつあるようなヒイキ。君は、ペルム紀に繁栄を誇ったカメの先祖ユーノトサウルスのように、絶滅の運命をたどるのか?

 

ただ同意語ながら「推す=おす」と「ヒイキ=ひく」で、逆の意味の音(おん)を持つ。ここにヒイキの活路を見いだせまいか。そういえば、推しが「ほら見て、素敵な人でしょ!」といった押し出し型 であるのに対し、ヒイキは「ウチのもんや」的な、対象の引き込み、囲い込みをおもわせる面がある。

 

例えば、今シーズン久しぶりに優勝した某プロ野球チーム。熱狂的なことで有名なここのファンは、お気に入りの選手であればあるほど、不調の時は「何やってんねん!」と罵倒のボルテージを上げる。

 

そんな関係性に「推し」などといった、なまぬるい用語を当てはめるべきではない。これぞ「ヒイキの引き倒し」だ。このような場面に、ヒイキという言葉の生き残りの場所があるかもしれない。