身の回りにあふれる日本語の文章。果たしてタテ書きとヨコ書きとどちらが多いのか、という調査をはじめたものの、志半ばで挫折したことがあった。今となっては、まちがいなくヨコ書きの圧勝。タテ書きが優勢であるのは書籍や新聞、マンガ(セリフは必ずタテ書き)の紙部門ぐらいだろう。
だが、そもそも日本語はタテ書きだ。源氏物語を読むときだって古の貴族たちは、右からひもとく巻物に、少しずつ現れ出ずる美麗な絵と文字を楽しんだはずだ。横書き文化が入ってきたのは明治以降、ほんの150年ほど前である。
これが定着したのはおそらく、1960年に「文書の左横書きの実施に関する訓令」で公文書が法的に横書きとなったことに端を発する。その後、英数字や記号の取り入れやすさで、ビジネス界でヨコ書きは圧倒的優位に立つ。
昭和35(1960)年、公文書をすべて左横書にせよとの訓令。タテ書きの官報に横書き文書を押し込んだなかなか強引なレイアウト
時は経ちスマホの時代に入って、タテ書きにわずかなチャンスが訪れた。縦長画面では、理屈上はタテ書き表示がよい。技術的にもさほど難しくない、ということで、復権を試みる動きもあったようだ。だが時すでに遅し、大多数のクリエイターにとって、タテ書きは表現の選択肢に入らなかった。
あたかも西洋タンポポに駆逐される在来種のように、その住処をなくしつつあるタテ書き。日本語明朝のフォントは、タテ書きのとき一番自然な形で収まるのに。主流派になるのは無理としても、社会の片隅に、その清楚な姿をいつまでも見せていてほしいものだ。との願いも、ヨコ書きでしか書けない自分が悲しい。
参考 タテ書きHP
おびむらさき-九州の小京都、飫肥。お城のふもとで武士の生活を体験するように泊まる宿